AIでマーケティング戦略を立てる方法|準備・検証・施策選びの手順
AIにマーケティング戦略を聞くと、SNS、広告、SEOと、いくつも案が出てきます。でも、今月どれを選べばよいのか。それを決められず、提案の一覧だけが残ることがあります。
AIで戦略を考えるときは、事業の目標と判断材料を渡し、候補を比べ、最初に試す施策と確かめ方まで決めます。文章が完成したところで、判断も終わったとは限りません。
この記事では、入力前の準備から、出力の確認、実行への引き継ぎまでを説明します。そのまま記入できる表も載せました。自社の施策を考える担当者にも、クライアントへ提案する担当者にも使える手順です。
筆者はMyMarketerの開発者です。特定のツールを契約しなくても、以下の整理は手元の資料と利用中のAIで進められます。
AIに渡す事業情報を整理する

図:必要な情報が足りなければ、前の工程へ戻って補います。
まず、増やしたい事業成果、顧客が困っている仕事、商品の条件、使える時間と予算を用意します。全部の情報がそろっている必要はありません。わからないことを、わかっていることと分けるのが出発点です。
| 渡す情報 | 記入する内容 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 事業の目標 | 何を、いつまでに増やしたいか | 受注・契約・継続率などの記録 |
| 顧客の仕事 | 誰が、どんな場面で困っているか | 商談メモ、問い合わせ、顧客への聞き取り |
| 商品と条件 | 提供範囲、料金、対応できないこと | サービス案内、契約条件 |
| 選ばれる理由 | 購入や継続の理由として実際に聞いたこと | 顧客の発言、比較検討の記録 |
| 代替手段 | 他社、内製、何もしない選択肢 | 競合の公式情報、商談で挙がった候補 |
| 実行の制約 | 担当者、工数、予算、使える素材 | 今月の稼働予定、制作物、実績 |
たとえば、「事業会社向け」だけでは、まだ広すぎます。「広告のLPを作りたいが、構成を考える担当者がいない」まで書くと、何を助ける必要があるのかが見えてきます。同じ会社でも、広告運用を外部に任せたい人とは求める答えが違います。
既存顧客が少ない場合、架空の顧客像で空欄を埋めないでください。相談を受けた一人の発言を使うなら、一人の観測として扱います。市場全体にも当てはまるかは、その後に確かめる話です。
「事実・仮説・未確認」を別の欄にする
AIへ渡すメモには、情報の状態も付けます。
- 事実:問い合わせで「自分で直せるLPが欲しい」と言われた。
- 仮説:納品後に編集できることが、選ばれる理由になりそう。
- 未確認:その理由で追加料金を払う人が、どの程度いるか。
これは説明用の例です。発言そのものと、その発言から考えたことを分けると、AIにも次に調べるべき点を渡せます。顧客名や非公開情報を入力する場合は、利用する環境と社内の情報管理ルールを確認してください。
目標から顧客・価値・施策をつなげる
目標、顧客、提供価値、施策を順につなぎ、途中で根拠が足りなければ戻ります。WHO・WHAT・HOWは、この対応を整理するための枠組みです。
目標を、施策の名前に置き換えない
「SEO記事を増やす」は作業です。事業として増やしたいのが相談なのか、商品購入なのか、継続契約なのかを先に置きます。
そのうえで、「その成果に向けて、顧客にどんな行動を取ってほしいか」を考えます。商品を比較している人なら条件の確認、業務の進め方を探している人なら実例や手順の利用が、次の行動になるかもしれません。
どちらにも同じ資料請求ボタンを置けばよい、とは限らないところです。
顧客の声をもとに、誰に何を届けるかを絞る
AIには候補だけでなく、各候補の根拠と反対理由も出してもらいます。
「小規模な制作会社がよさそう」という案なら、どの相談や利用記録がそれを支持するのか。その会社が自分で対応できる場合や、既存サービスで十分な場合も考えます。
根拠が弱ければ、すぐにターゲットを確定せず、聞き取りや試用の観察を次の作業にします。WHO・WHAT・HOWの用語は、マーケティング戦略のフレームワーク解説で確認できます。
施策は、同じ時間と予算の中で比べる
新しい記事、既存ページの改善、広告、営業資料。候補を比較するときは、同じ資源の範囲で何ができるかをそろえます。
| 比較する点 | 判断に使う問い |
|---|---|
| 解く課題 | 顧客のどの迷いや負担を減らすのか |
| 根拠 | 実績、顧客の声、検索などで何を確認したか |
| 利用できる材料 | 説明だけでなく、実例や手順を示せるか |
| 工数と維持 | 作る時間と、更新する時間を確保できるか |
| 次の行動 | 利用、問い合わせ、購入などへどうつながるか |
| 反証条件 | 何が起きたら、選び直す必要があるか |
この表が埋まらない候補は、調査が必要な候補です。情報がないところにAIが作った点数を入れても、比較の確かさは増えません。
AIの提案をそのまま使う前に確認したいこと
数値の出典、顧客の根拠、競合の実際の提供内容、自社の実行能力を確認します。文章が具体的でも、その内容まで確認済みとは限りません。
数字は原典まで戻る
市場規模や検索量には、取得元、対象、期間、定義が必要です。出典のない数字は採用せず、調べ直す項目へ戻します。
自社サイトの検索表示回数と市場全体の検索量、LINEへのクリックと友だち追加、資料の取得と有料契約も、それぞれ別の数字です。取得できた指標の範囲で判断します。
競合との差は、同じ仕事で比べる
「AIで効率化する」「戦略から実行まで支援する」だけでは、他社との違いが伝わりません。誰のどの仕事について、何を受け取り、どこまで成果物や運用を提供するかで比べます。
自社にも競合にもある機能を、独自の強みとして説明しないこと。違いを示す実例がなければ、まだ検証する仮説として残します。
現場で感じたことも、具体的な場面とともに伝える
担当者の経験は判断材料になります。ただ、「うちのお客さんはそうではない」と感じたとき、どの顧客の、どの場面を思い出したのかまで書くと、他の人も検討できます。
AIの提案と現場の意見が食い違うなら、どちらかを無条件に優先するより、違いが生まれた前提を確認しましょう。
施策を選んだ理由を、記録に残す
選んだ施策だけでなく、選ばなかった理由と見直し条件を同じ表に残します。後から結果を見たとき、何を確かめていたのかを思い出せる形です。
自社例:LPの無料スキルを入口に選んだ理由
当社では2026年10月、普段のAIでマーケティングの仕事を進めたい人に向けた集客方針を整理しました。最初の入口に選んだのはLP制作です。ただし、提供する価値をLPだけに限定せず、戦略・記事・広告・分析などの仕事につなげる方針にしました。
以下は当社の判断と制作の記録です。顧客の成功事例や、売上効果を示すものではありません。
AIと候補を比べるときも、対象の仕事・制約・使える材料を背景情報として渡します。OpenAIのプロンプト作成ガイドは、依頼を明確にして十分な背景を伝えることと、回答を確認し、情報や依頼を調整することを案内しています。下の「確認できた材料」「残っている判断」の欄は、その確認に使えます。
| 判断する項目 | 使った材料と、選んだ理由 |
|---|---|
| 進めたい仕事 | 少人数で集客を担う人が、事業の条件をAIへ渡し、制作物と次の判断まで進めること。利用者数だけでなく、仕事が完成し、再利用されるかを確かめる。 |
| 確認できた材料 | 公開できるLPのデザイン見本と実装があり、配布スキルを使った試作の入力・修正・表示確認も記録できた。作れるものを、説明だけでなく実物で示せる。 |
| 比べた価値の伝え方 | 「無料スキルの種類と時短」「事業の条件に沿って判断と実務が進む」「集客全体を丸ごと任せる」の3案を比較した。 |
| 採用したこと | 共通の価値は、事業の条件に沿って判断と実務を進めること。LPは成果物を確かめやすい最初の入口にし、完成例と使う条件を見せる。 |
| 採用しなかったこと | 無料・種類の多さだけを選ばれる理由にしない。集客全体の委任は必要な人への支援として残すが、無料スキルの利用者全員へ約束しない。 |
| 制作へ渡した条件 | 構成・デザイン・実装を一つの制作手順として案内する。必要環境と費用を分け、制作見本と配布スキルでの試作を区別する。 |
| 確かめたい仮説 | 自分の事業で使える完成例と手順があれば、一件を試し、次の仕事にも使いやすくなる。完成・採用・再利用は、これから利用記録で確かめる。 |
| 残っている判断 | 無料利用から有料支援へ進む条件と、継続利用・売上への効果。制作できたことだけで、事業成果が出たとは判断しない。 |
方針を具体的に伝える材料として、すでに公開しているLPの制作記録を使います。「どんなLPができるか」に加え、「渡した条件から何を選び、どこを直したか」を確認できます。
配布スキルで試した架空商品の「余白ノート」では、価格・送料・販売開始日は未定、申込・決済は設けない条件を渡しました。そのため、価格を補った購入ボタンではなく、使い方と仕様へのリンクを置きました。スマートフォンで小さかった注記も調整し、クリックとキーボード操作を確認しています。商品設定は架空ですが、試作・修正・確認は実施した記録です。
関連記事
AIでLPの構成から実装まで進める方法|制作例と工程ごとの確認点
記事を読む他社でも同じ入口がよいとは限りません。公開できる完成例がない、顧客が求める仕事が違う、利用環境に合わない場合は、先に材料や対象を見直します。
結果を見て、次に確かめることを決める
検索語だけで、読者の職種や会社を特定できるわけではありません。検索語は求められている内容を考える材料にし、対象業務との一致は相談内容など、取得できる情報と併せて確認します。
| 観測した状態 | 次に確認すること | 今は決めないこと |
|---|---|---|
| 対象業務と無関係な検索語が中心 | 検索意図とタイトル、本文の答えがずれていないか | 閲覧数だけで需要が強いと判断しない |
| 関連する検索語から来ているが、実例へ進まない | リンクの計測が動くか、実例の案内を見つけられるか | 商品への関心がないと決めつけない |
| 関連する閲覧が少数だけ | 公開・検索登録の状態と観測期間を確認し、記録を続ける | 相談率の良し悪しを断定しない |
| 相談が届いた | どの業務で困り、何を依頼したいかを確認する | 検索経由と確認できない相談までSEO成果にしない |
公開4週間後・8週間後など、確認時期を先に仮置きします。成果が出る期限ではありません。計測できない行動はゼロ件に置き換えず、未確認と記録します。
自分で整理した事業情報・実行の制約・施策候補を、次の依頼文の下に貼り付けてAIに渡します。これは実行記録ではなく、入力例です。
以下に貼り付けた事業情報・実行の制約・施策候補を使い、最初に試す施策を比較してください。
事実・仮説・未確認を分け、判断材料を推測で埋めないでください。
各候補について、対象顧客の仕事、提供価値との関係、必要な作業、
現在の時間と予算で実行できるか、選ばない理由を整理してください。
判断に足りない情報があれば、先に調べることを示してください。
候補を選べる場合は、最初の行動と、結果を見て判断を変える条件までまとめてください。
決めた戦略を、最初の施策につなげる
施策を選んだら、担当、最初に作るもの、確認する指標、見直す時期を決めます。初回の成果物を作ることと、事業成果が出ることは分けて管理します。
記事なら「原稿完成」「公開」「検索からの閲覧」「利用や相談」を別々に記録します。原稿ができても検索されるかは未確認ですし、閲覧が増えても受注につながったとは言えません。
提案資料へまとめるなら、マーケティング提案書の作り方へ進めます。LP制作へ進む場合は、選んだ顧客、伝える価値、使用できる証拠を制作担当へ渡してください。
会社の資料や複数の業務をAIにつなぎ、継続して運用する体制まで整えたい場合は、AIマーケティング部構築支援で対応範囲を確認できます。
よくある質問
AIだけでマーケティング戦略は完成しますか?
案や比較表の作成は進められます。ただし、社内にしかない情報、数字の原典、商品条件、実行できる範囲を確認する必要があります。AIの出力が具体的であることと、自社に適した判断であることは別に確認してください。
どのくらい時間がかかりますか?
手元の資料と、未確認事項の量によります。文章を生成する時間だけでなく、情報の整理や出典確認も必要です。「何分で戦略が完成する」と一律には言えません。
顧客データが少なくても始められますか?
始められます。少ない観測を市場全体の特徴に広げず、仮説と次に確かめることを残してください。まず問い合わせや失注理由を整理するところからでも進められます。
まずは、今検討している施策を一つ選び、「なぜそれを選ぶのか」「何が起きたら選び直すのか」を書いてみてください。そこが曖昧なら、AIに案を増やしてもらう前に、判断材料を補うところからです。
著者について

山本至人
200社以上の中小企業マーケティングを支援。WHO-WHAT-HOWフレームワークをAIに組み込んだMyMarketerの開発者。株式会社WHAT代表取締役。東京大学松尾研AI経営修了。法政大学法学部卒業。映像制作事業やDtoCアパレルブランドなど複数の新規事業立ち上げにCMOとして携わる。2023年株式会社WHAT設立。外部CMOサービスにて多くの企業のマーケティング支援を実施。東京大学松尾研AI経営修了。
- 株式会社WHAT 代表取締役
- 東京大学松尾研 AI経営寄付講座 修了
- 複数企業の外部CMOとしてマーケティング支援を実施





